東急不動産株式会社は、株式会社再生建築研究所と共に、柔軟な発想と自由な遊び心で環境課題に向き合うコンパクトビルシリーズである「COERU(コエル)」シリーズとして、COERU 渋谷道玄坂(2024年6月竣工)、COERU渋谷イースト(2024年10月竣工予定)が広域渋谷圏※1において竣工することを発表した。
再生建築の手法を用いた第1弾・第2弾施設として、既存建物を解体することなく、建物を適正化する過程で環境性能の向上や執務環境の改善など、時代に即した機能の更新を行い、バリューアップした。
※1 広域渋谷圏とは、東急グループの渋谷まちづくり戦略において定めた、渋谷駅から半径約 2.5km のエリアのことを指します。
再生建築とは
日本における建物の平均寿命は約30年であり、欧米諸国での約100年と比較して著しく短いと言われている。しかし、日本における築30年以上の建物の中には、建築時の基準に沿っているが現在の耐震性能を満たしていない、または時代のニーズに適合していないものの、建物の躯体は良好である場合も多くある。再生建築は、そのような躯体状態が良好な建物について、既存の躯体を活かしながら、新たに自由度の高いデザインや設計を加えることにより、建物に改めて命を吹き込み、不動産価値を最大化させることができる建築手法だ。
東急不動産では、環境対応や社会的課題解決の実現として、既存ビルのZEB化を試み※2、国内で課題となっている既存ビルストックの価値向上についてのアプローチを行っている。再生建築でも、当社のリソースを組み合わせて活用することで、「建物としての空間価値の向上」「環境貢献」「まちのにぎわいづくり」をめざし、サステナブルな社会へと貢献していく。
各施設概要
(1)COERU渋谷道玄坂(2024年6月竣工)
計画の概要
本施設は渋谷・道玄坂の交差点に位置する築38年の建物で、従前は「カプセルホテル渋谷ビル」という名称で簡易宿泊所として利用されていた。この度の再生建築工事により、現在の規定への適正化や用途変更、設備の更新などを行うことで、オフィス・店舗・サウナ施設として生まれ変わる。
用途に合わせた快適性を提供
オフィスフロアは、これまでカプセルホテルとして使われていたため、閉鎖的な空間となっていたが、新たに大きな開口部分を設けサッシを新設し、開放性・採光性のあるオフィス空間を創出した。
また、内装デザインの更新や、空調・照明設備の更新を行うことで、新築と遜色ない機能性や快適性を提供。さらに、地下1階の直通階段部分の適正化により、利用者の避難の観点から安全性を向上させている。
まちのにぎわい創出
1階から3階は従来、地域の方々や渋谷への来訪者に多く利用をされていた3階の既存サウナ設備を生かしながら、株式会社ヒトカラメディアのプロデュースにより、サウナを中心とした新たな施設に生まれ変わった。
3階までの名称は「渋谷文化進化」で、「渋谷の滞在に、より自由を」をコンセプトに、「食・泊・整」の3機能をそれぞれのフロアで提供することにより、渋谷での多様な滞在スタイルを提案。週末などに渋谷に遊びに訪れる来街者、国内外の観光客はもちろん、日々渋谷で働く本施設及び近隣のワーカーに対しても、渋谷に滞在する時間をより豊かにするサービスを取り揃えている。3フロアで提供するサービスを全て堪能することはもちろん、1フロアごとのこだわりのサービスをそれぞれ利用することが可能、「渋谷ってやっぱりオモシロいな!」と実感できる機会を提供していく。
また、建物の外観についても、上層部にはサッシを新設し開口部を増加させ、低層部にはサインを設置することで街に開けたデザインへと更新し、意匠としてもまちのにぎわいを創出する。
環境負荷軽減
本施設では、既存建物の建て替えをせず、再生建築により有効活用していくことで、既存建物を解体し新たな建物を新築する際と比較して89%のCO2の削減、95%の廃材量削減が可能となる。
また、長野県・茅野市にある、東急リゾートタウン蓼科の当社管理森林で生まれた間伐材を活用し、内装家具付きオフィスのフォンブースの机や受付台を製作し、カーペット等にも再生由来の内装材を採用。さらには、当グループの株式会社リエネが提供する「リエネでんき」のサービスによって、当社発電所由来の再生可能エネルギー電力を活用し、入居者に当社が生み出す環境価値の提供を実現する。
施設概要
所在地:東京都渋谷区道玄坂1-19-14
建築主:東急不動産株式会社
設計者:株式会社再生建築研究所
施工者:株式会社GOOD PLACE
延床面積:954.01 ㎡
構造・規模:SRC造・地上10階/地下1階
竣工:1985年(新築時)/2024年(再生建築時)
(2)COERU渋谷イースト(2024年10月竣工予定)
計画の概要
当建物は1972年に共同住宅として新築され、2017年のリニューアル以降も竣工当時の間取りのまま、複数のスタートアップ企業が入居し利用されていた。この度、再生建築を用い、増築による面積の拡大や意匠・設備更新を行うことで、1階は店舗用途、2~5階はオフィス用途の複合ビルとして新たに生まれ変わる。
空間快適性を向上
本施設が位置するエリアは、竣工当時から現在までの間に都市計画や用途地域が変更になっており、容積率が緩和された。そこで、建物の前面側へ増築をすることで、未消化となった容積率を有効活用している。また、下階の増築を行い上階を減築をしており、減築の過程で吹き抜けのある開放的な区画や、入居者が利用できるルーフテラスを設置し、従前にはなかった新たな空間を生み出した。
更には、既存のバルコニーや外壁を撤去して増築し、ガラスファサードに変更することで、採光に有効な開口面積を拡大し、明るく快適な内部空間も生み出すことができ、外装や内装の意匠の刷新・設備更新と併せて新築建物と遜色のない快適性を提供していく。
また、既存建物は旧耐震建築物のため、耐震補強を行う必要性があった。柱巻の耐震補強を採用することで、現行の耐震基準と同等の耐震性能を確保し、安全・安心な建物へと生まれ変わった。
まちのにぎわい創出
既存建物は共同住宅という性質上、プライベートで閉鎖的な印象をもつ外観だったが、今回の再生建築の手法を用いた工事によって、明るくまちに対して開かれた印象のビルへと生まれ変わった。また、既存の柱位置などを活かしたレイアウトの内装家具付きオフィスとすることで、スタートアップ企業の拠点であった従前の文化を繋ぎ、また新たな企業が入居し成長する場所となることをめざしている。
環境負荷軽減
本施設では、既存建物を解体し新たな建物を新築する際と比較して66%のCO2の削減、89%の廃材量削減が可能となった。また、既存建物の解体時に排出されたコンクリート廃材は、6階バルコニーの植栽に一部に活用。その他にも、当社管理森林の間伐材を使用した内装家具付きオフィスの一部家具や、株式会社リエネの再生可能エネルギーを使用するなど、既存資源を有効活用することで、当グループ内での資源循環を実現する。
施設概要
所在地:東京都渋谷区渋谷2-6-6
建築主:東急不動産株式会社
設計者:株式会社再生建築研究所
施工者:株式会社エフビーエス
延床面積:697.30 ㎡
構造・規模:RC+S造・地上6階
竣工:1972年(新築時)2024年(再生時)