渋谷桜丘に生まれる、インディーゲームの聖地
こと「遊ぶ」というジャンルにおける選択肢の多さは、渋谷は日本トップクラスの街と言えるだろう。カラオケ、劇場、Bar、クラブ、ショッピング…などと挙げていく必要もないくらい、想像しうる時間のつぶし方は多様に、それでいてハイクオリティに揃っているはずだ。ただ一方で、それらのアミューズメントが隙間なく街に敷き詰められるほど、今まで触れたことのない“遊び方”は、大人になるにつれてだんだんと見つけづらくなるのかもしれない。
そんな渋谷の真ん中に、まだ見ぬ「遊び/GAME」をつくり出すための拠点が誕生する。まだ存在しないページを指すインターネットのエラーコードから「404 NOT FOUND」と名付けられたこのスペースは、2023年11月に竣工した「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」 の4階中心に位置する。2024年夏の利用開始を目指し、先駆けてティザーサイトとコンセプトムービーが公開された。
404 NOT FOUNDがクリエイション拠点として展開していく上で起点としているキーワードが「ゲーム」。この拠点では、世界初となるインディーゲーム※クリエイターのコンテンツ制作・パブリシティ活動・国際交流・海外展開支援等を実現するエコシステムを構築するほか、音楽・食・アート・エンターテイメントなど多様なイベントを同時多発的に開催し、新たなカルチャーを生み出すクリエイションの実験場として渋谷の街に開かれていく。
※インディーゲームとは、independent game (インディペンデント・ゲーム )の略称で、独立系ゲームなど少人数・低予算で開発されたゲームソフトを指し、開発者が実現したいものを作る・売ることにこだわらない作家性の強いゲームの通称。
すでに日本最大級のインディーゲームの祭典“ BitSummit(ビットサミット)” との提携が決まっており、日本の優れたゲームコンテンツの発信や、これから才能を開花させる次世代のクリエイターや、海外のインディーゲームクリエイターが集まる拠点を目指していく。
また、カナダのケベック州政府在日事務所、ベルギーのWALGA (Wallonia Games Association)といった海外の政府機関や振興機構、株式会社KADOKAWA Game Linkageやきびだんご株式会社など数々の国内企業が404 NOT FOUNDの推進に基本合意書を締結していることも、持続的なクリエイター支援やグローバル展開を期待する上で注目すべきポイントだ。
404 NOT FOUNDのコミュニティ運用を担うのは、一般社団法人渋谷あそびば制作委員会。全国各地で活躍する様々な領域のクリエイター・プロデューサー陣と東急不動産が共同で設立したこのチーム、多種多様なコネクションやネットワークは存分に活かすものの「ぼくらは土台を提供するだけ。表には極力でないし、定義もしたくない」と話す。
まだ謎に包まれた渋谷の空き地、404 NOT FOUNDとはいったい何なのか? 渋谷あそびば制作委員会の理事であるNue inc/松倉早星 氏と株式会社 Sanka9/石川武志 氏、404 NOT FOUNDのVI(ビジュアル アイデンティティ)を手がけたNEW Creators Club/山田十維 氏 ・坂本俊太 氏に話を聞いた。
「何もない」をロゴに、渋谷を消すことで生まれる空き地
─404 NOT FOUNDの立ち上げメンバーは、日本全国で活躍するプレイヤーの方々が参加されてると聞いています。そうした網羅的なチームビルディングは意識的なものでしょうか?
松倉 : そうですね、明確にルールをつくっているわけではないですが、都内と地方のプレイヤーが半々で混ざればいいかなという感覚はあります。その街に住んでいたり内側にずっといたりすると、外からどう見られてるのかがいまいち分からないことってありがちだと思うんですよね。このプロジェクトもそういう外の視点を積極的に入れたくて、僕も拠点は京都ですし、今動いてるメディアチームも長野と京都が拠点です。
坂本 : 僕は渋谷のすぐ隣の街に住んでいるんですけど、このプロジェクトのキックオフMTGのために京都まで行きました。「これ渋谷のプロジェクトだよな…?」と思いつつ。
松倉 : 来てくれたよね。渋谷はそもそもネイティブの人の方が少ない街ではあるんだけど、それをさらに引いた視点を絡めて再編集すると面白いんじゃないかなと。
でもエリアうんぬんの前に、一緒にやるメンバーの根本にあるのは「遊ぼうよ」って言えばのっかってくれるマインドです。こういう風にやってください、ってこっちからディレクションしないと動けない人が誰一人いなくて、「こういうことできるけど、何して遊ぼっか?」って勝手に踊り出てくる人たちが今の404 NOT FOUNDの周りには集まっていますね。
─今日来ていただいてる、404 NOT FOUNDのロゴやWEBのビジュアルを手がけたNEW Creators Clubも2021年に設立された新進気鋭のチームです。このような世代を跨いだ人選も意識してのことでしょうか?
松倉 : 僕が思うに、40歳を超えたら表舞台にはもう出なくていいんですよ。少なくともこの404 NOT FOUNDはそうしたいし、次の世代の場をつくってあげることに力を注ぎたい。
石川 : 東急不動産の数あるプロジェクトの中でもこの404 NOT FOUNDは多分ちょっと変わっていて、今中心にいるメンバーが誰も表立って「これは俺の仕事だ!」って主張したがらないんですよね。それは消極的なわけではなく、むしろ好きな後輩がいるから彼彼女らに活躍の場を与えたいという感覚が強い。土台をつくることにスキルを発揮しようと皆していますね。
─NEW Creators Clubの皆さんは、このプロジェクトに特殊性を感じる部分はありますか?
坂本 : もう僕は松倉さんに調教されてて…。デザインって普通は意味を考えたり込めたりしたくなるものですけど、この404 NOT FOUNDにおいては、むしろそこをどれだけ考えないかっていう逆の負荷を自分にかけ続けるクリエイティブをしました。松倉さんにラフを見せて「普通にいいね」って言われたらそれはアウト。普段とは真逆のベクトルの力で取り組んでいました。
山田 : ただ、僕たちが今回ここまで自由に凝ったクリエイティブができたのは、最終的に松倉さんが何とか通してくれるのだろうという信頼感があるからでもあります。
渋谷の真ん中に空き地をつくるというこのプロジェクトに対して、過密に人・モノが密集する渋谷の街を塗りつぶす・消していくことで「空白=空き地」を生み出していくことをロゴやWEBでは表現しました。ここまでデザインで遊びを入れた表現を渋谷ど真ん中のクライアントワークでできたのは楽しかったですね。
─NEW Creators Clubの皆さんは元々「渋谷あそびば制作委員会」の皆さんとは関係値があったのでしょうか?
石川 : 松倉さんがクリエイティブづくりをスタートしていて、いろんなクリエイターに相談していました。でも、今回のやり方として、今まで仕事をしてきたメンバーで座組で進めていけばおそらく間違いないものはできるだろうけど、それって404 NOT FOUNDの世界観とは少し違うんじゃないか? という話になり。松倉さんが同世代のCEKAIのクリエイターたちに、「最近ヤバい、怖いと思ってる後輩いる?」と聞いて名前が挙がってきたのがNEW Creators Clubだったという話です。そこから今回のような流れでクリエイティブ開発がスタートしていきました。
─「怖い後輩」ってクリエイティブの先輩から認識されるのは嬉しいですね。
坂本 : 嬉しいです。クリエイターって下の世代が上の世代を疎ましく思いがちではあるんですけど、こうして上の人たちが背中を押してくれるのはありがたいです。
山田 : さらにいうと僕らより下の世代の、今の大学生や新卒一年目ぐらいでヤバい表現をしてる人たちもたくさんいるので、404 NOT FOUNDはそうしたクリエイターが出現する拠点にもなりそうな予感がしています。
石川 : 僕も普段仕事やイベントをしていく中で、語学が堪能だったりクリエイティブができたりびっくりするスキルを持ってる若い人にたくさん会いますけど、みんなお金や仕事がないって言うんですよね。もう、僕はクリエイターにお腹いっぱいご飯を食べさせる寮母みたいになりたいんですよ。営業して、受注して、みたいなステレオタイプのやり方から脱却して、404 NOT FOUNDにくればクリエイティブができるし自然に仕事にもつながる仕組みができるといいと思ってます。
松倉 : 一方で、今は土台をつくっている段階なのでスキルのあるプレイヤーが中心にいるように見えますが、何か特殊能力がある人だけが溜まれる場所にする気は全くなくて。遊びの提案は誰だってできるんですよ。
極端にいうと、こういうインタビューしている途中で「もうトークとか止めて鬼ごっこしようぜ!」ってバカな提案しても大丈夫な空気をつくりたい。子どもの頃って、遊びそのものを自分でつくり出してたじゃないですか。それが大人になるとなかなかできなくなるのって、すごくもったいないなと思う。そういう提案が許される場所と「いいじゃん」って言ってくれる仲間がいる状況を、この渋谷のど真ん中の商業施設で実現できたら面白いですね。
渋谷のど真ん中で、まだ名前のない遊びを
─スペースのオープンは2024年の夏を予定していますが、今の時点で目論んでいる404 NOT FOUNDの動きはなんでしょうか?
石川 : BitSummitが連携してくれる強みを活かして、国内外のインディーゲームを集めたイベントを実施しようとしています。また、ここでいうゲームはビデオゲームだけを指しているわけではなく、アナログゲームやボードゲームはもちろん、クリエイターによる試遊イベントも開催する予定です。海外のインディーゲームクリエイターも招いたゲームジャムや発表会も計画しています。
─お話をお伺いすると、あまりビジョンやコンセプトを定義しすぎずに「遊び/ゲーム」に寛容な拠点をつくろうとしていることが想像できます。404 NOT FOUNDがスタートしていく中で渋谷にどんな変化が生まれて欲しいですか?
松倉 : 今まで誰にも見つけられなかった才能が、404 NOT FOUNDによってめちゃくちゃフックアップされると嬉しいですね。街全体を変えるというより、この拠点から世の中に理解されていく人が増えればいいなと思います。
ロゴもWEBも「消す」「塗りつぶす」という行為を推奨しているように、いろんな表現者たちのキャンバスになる拠点にできないかなと。今あるロゴをグラフィティのように上書きするカルチャーがあってもいいと思う。「いや、自分の方がもっと面白い表現できる!」って奴がたくさん出てきて、元の正規のロゴがわけわかんなくなるような。商業施設というより、巨大なキャンバスでありプラットフォームになって欲しいです。
─世代もジャンルを超えたクリエイターが垣根を超えて集まってくるような。
松倉 : そうですね、でもクリエイターに限らず渋谷にいる誰もがフラッと集まれる仕組みも考えてます。
イギリスのBarにいくと店の中に鐘が吊るしてあって、それを客がガラーンと鳴らすと「今日は俺のおごりだ!」って合図なんですよね。だから知らずに鳴らしちゃうと大変なことになるんですけど。でもそれを鳴らすと店全体がワッと盛り上がって、一体感が生まれる。ああいう文化が渋谷でも生まれないかなと想像しています。
それかワンピースのバスターコールみたいに、ボタン一つ押したら近くにいるメンバーが緊急で集まってくれるような…まぁそれは実現しようとしたら色々な問題がありそうですけど、そういう都市の孤独な人のセーフティネットみたいな側面も持たせられるといいなと妄想しています。
─クリエイターに限らず、興味を持てば誰でも関われる余地がある場所ということですね。
松倉 : めちゃくちゃあると思いますよ。今日みたいに「Shibuya Sakura Stage」の目の前の「SHIBUYA SACS」で月一の無料トークイベントを続けていて、お酒を飲んでゆるく交流しながら404 NOT FOUNDで何をして遊ぶかのアイデアをお客さんと一緒に出し合っています。今後は本格的な開業に向けてデジタルでもリアルでも仲間づくりができる環境をつくっていきます。
石川 : イベントをやってると「どうすればこの拠点のメンバーに入れるんですか?」と聞いてくる方も多いんですけど、参加条件の線引きを設けるスペースにするつもりはないです。自由と無秩序は似て非なるものですが、そこのバランスをとりながら街に向けて開いていきたいですね。
─最後に、これからの渋谷で期待する「遊び」とはなんでしょうか?
松倉 : 渋谷って昔はもっと何が起きるかわからなくてちょっと危ない、ハラハラした面白さがあった。でも今は綺麗に情報が整理されたことで良くも悪くもそれがなくなり、僕のように街から用意された娯楽に対して飽きちゃってる人っているんじゃないかなと思ってます。
僕らが404 NOT FOUNDを「空き地」と呼んでいるのは、これから名前のない遊びをつくろうということ。サイコロとトランプがあったとしたら、「何のゲームする?」じゃなくて「どんなゲームつくる?」って遊び出す感覚。そんな街に対するクエスチョンマークや余白を、この渋谷の真ん中の商業施設から生み出していきたいですね。