出会いと共創が生まれる“空き地”のような遊び場


「404 Not Found」は、イベントスペースである「404 PARK」と、物販とカフェが融合した「404 STORE」、最新の設備が揃う配信スタジオ「404 STUDIO」、そしてキッチン&レストランスペースの「404 KITCHEN」で構成されている。そのコンセプトは「渋谷の空き地」だ。そこに込めた思いを織田氏はこう説明した。
「渋谷はいろんな文化が混ざり合って新しいものが生み出され、積み重なってきた場所です。異質なものが許容されてきた、懐が深い街なのだと思います。だからこそ渋谷の再開発のラストピースとも言われるこのエリアには、あえてちょっとカオスを生み出すような空間=“空き地”があってもいいんじゃないかと。昔は特に約束しなくてもなんとなくみんなが遊びに行くような空き地が、色んなところにありましたよね。空き地でたまたま集まった人同士で遊んだり、一緒に遊んでいるうちにその日だけのルールができたりして、日が暮れるまで夢中で遊んだりする。それが私たちの空き地のイメージです。404 Not Foundも、運営側が完璧に遊び場を用意するのではなく、来た人が自分たちであそびを生み出し、出会い、そこで何かが始まる。そんな場所を目指しています。」

多様なジャンルのクリエイターが創作活動を行い、作品を発表する場となる「404 Not Found」は、クリエイターと社会との接点となり、つくり手と買い手が出会う場にもなる。さらにその出会いから関係性が育まれ、新たな創造につながっていく可能性もある。イベントスペースの「404 PARK」には大型のLEDビジョンが設置されており、イベントやワークショップ、記者発表など多様な用途を想定している。企画に応じて自在に空間を仕切ったり、照明の色調や光量を調整することも可能だ。取材当日はピクセルアートの学校『The Pixel School』が開催されており、大型ビジョンを使ったピクセルアーティスト APO+氏の講義に受講生らが耳を傾けていた。


遊び場が叶える創造、発信、コミュニケーション
「404 PARK」の隣は物販とカフェのスペース「404 STORE」だ。オープニングイベントと関連した「GEEK MARKET」のコーナーにはボードゲームなどのアナログゲームが並び、個性あふれるクリエイターたちのキーホルダーやアクセサリー、バッグなどのアイテムも販売されている。カフェは来場者たちの交流の場でもあり、ドリンクを片手にテーブルに置かれたゲームを自由に楽しむことができる。取材日には、入口でファッションデザイナーのTyler.氏が2日間限定のリメイクショップをオープンしており、来場者とコミュニケーションをとりながら持ち込まれた服にリメイクを施していた。



同フロアにある「404 STUDIO」は、音声コンテンツや動画コンテンツの収録および生配信ができるスタジオだ。様々なスタイルのレコーディングや番組制作に対応可能なプロフェッショナルな最新の機材が導入されている。すでにラジオの公開収録やゲームコンテンツのライブ配信でも利用されており、「404 PARK」の大型ビジョンを使った中継放送など、スタジオ内だけで完結しない幅広い活用が進められている。今後はクリエイターの配信へのアドバイスや企画の支援も行われていく予定だ。

そしてフードクリエイターが新しい食の可能性を模索する場として設けられたラボキッチンが、「404 KITCHEN」だ。まだどこにも存在しないお店を1日限定でオープンしたり、新商品をプロモーションしたりと、使い方は可能性に溢れている。クリエイターや来場者が食を通じて交流し、新しい食のカルチャーが生み出される場として展開されていく。

全てのインディークリエイターに向けた会員制度「CLAN」
インディークリエイターの遊び場として、幅広い領域のクリエイションを支援する機能を備えた「404 Not Found」。クリエイターの作品を目当てに訪れる来場者もいれば、通りがかりにゲームを見つけて遊び始める家族連れやカップルなどもいる。子どもから大人まで、あらゆる年齢層が思い思いに過ごすあそびばが醸し出すのは、何か面白いことが起きそうな、未知の未来への期待感だ。織田氏の話からは、その企画と運営を担う渋谷あそびば制作委員会が、予想外の出会いや偶発的なコラボレーションを面白がりながら場をつくりだしていることが伝わってきた。
「そもそも渋谷あそびば制作委員会自体が、“インディー魂”を持つ人たちの集まりなんです。渋谷に新しい商業施設をつくるという時に、これまでの商業施設で当たり前だったルールや慣習の意味を改めて考えてみるというところから始めました。何かを決めるまでにかなり時間がかかることもありますが、面白いことのために苦労することは厭わない。そんなメンバーばかりです。私たちに限らず、実は予定調和なものに飽きている人は一定数いると思っていて、そういう人たちがそれぞれの強みを掛け合わせたら、爆発的な原動力が生まれるかもしれない。そうなったら本当に面白いことが起きそうだと私たちは考えています。そのための設備や仕組みが整ったあそびばが渋谷にあったらすごいよねと。「404 Not Found」にはいろいろなジャンルのクリエイターがアイデアを試し、それを形にできるアセットが用意できたかなと思っています。」

現在、渋谷あそびば制作委員会では、「404 Not Found」を一緒に盛り上げていく仲間となる「CLAN(クラン)」を募集している。CLANとは、ビデオゲームの世界で一緒にプレイする集団のことを指す表現だ。「404 Not Found」では3タイプのCLANのつながりから、ジャンルを跨いだ共創やコラボレーションの実現を目指している。
インディークリエイターや学生、会社に勤務するクリエイターなどに向けたクリエイター会員サービス「CLAN MEMBERS」は、ひと月3ドルで「404 Not Found」の施設利用やオンラインコミュニティでのメンバーとの交流、新しいコンテンツづくりへの参加などの特典が得られる。自身の成長や別のジャンルのクリエイターとの出会いを求め、新たな表現を模索し挑戦したいクリエイターのためのサービスだ。
「何かを生み出したいという人はみんなインディークリエイター」と織田氏はいう。
「年齢や社会的な立場に関わらず、独立志向があり自分で創造したいという思いのある全ての人をインディークリエイターと捉えています。そういう人たちが自分の好きなことを追求したり、領域の異なる仲間と出会って、一人ではできないことを一緒にやり遂げたりする場所を、CLANのつながりを通じてつくりたいと思っています。」

そしてそんなクリエイターを応援するとともに、クリエイターとつながりを持ち、共創により未来をつくり出したい企業や自治体などの会員は「CLAN PARTNERS」と呼ばれる。「CLAN PARTNERS」には、クリエイターとのマッチングや「404 Not Found」でのイベント開催などのサービスがあり、そうした組織の新しい試みの場としても機能していく。さらに「CLAN EXPERT」として、「404 Not Found」の想いに賛同するプロフェッショナルなクリエイターやアーティストが参画している。幅広いフィールドで活躍する「CLAN EXPERT」との出会いや交流のチャンスも、この会員制度のメリットだ。
出かける理由であり居場所となる新たなカルチャーシーン
この夏スタートしたばかりの「404 Not Found」。すでに多くのクリエイターが訪れ、自然発生的に生まれる活動やイベントもあるという。7月25日からのオープニング企画として開催されたゲームイベント「4●4 GAME SHOW -feat.BitSummit RoadShow-」では、インディゲームの展示や試遊などが行われたが、同時にストリートパフォーマーたちによるパフォーマンスや、ものづくりをするクリエイターの出店もあり、それぞれのコンテンツへの来場者が混ざり合い、ジャンルの壁を越えた交流があちこちで生まれていた。一見カオスのようにも見えるその遊び場の状況こそが、渋谷あそびば制作委員会の理想像であり、そこに対する思いを織田氏はこう表現した。
「多くの人が無意識のうちにいろんなものをカテゴライズして、その枠の中で自分の居場所を決めてしまいがちです。でも本当は違うと思っていたジャンルでもすごく共通点があったりする。自分で枠をつくって区切ってしまっているために出会えていない人が世の中にはおそらくたくさんいて、そういう人たちが出会える場所が404 Not Foundだったらいいなと思います。ここに行けば自分の表現を人に伝えられるかもしれない、ここで何かやりたい、という思いで集まってくれる人たちと一緒にこのあそびばをつくっていきたいですし、そう思う人が増えていくことを期待しています。」


今後は様々なオリジナルコンテンツのリリースを予定している「404 Not Found」。すでにスタートしているwebコンテンツや動画コンテンツに加え、音声コンテンツの公開が予定されている。施設のコンセプトと同様に、こうしたメディアを活用したコンテンツ企画も遊び心やクリエイティブ精神に溢れ、予定調和に収まることはない。もともと渋谷サクラステージの4F フロアの開発コンセプトとなっていた「ぼくらがまちに出る理由」というテーマを、運営する多彩なメンバーやそこに関わるクリエイターたちが体現し始め、渋谷に新しいカルチャーシーンが根を下ろそうとしている。
「コロナ禍で人が街に出なくなり、その間に全てがオンラインで完結できるようになりました。誰かと会うことの意味もちょっと変わったし、わざわざ出かけるための目的が必要になってしまった。そんなタイミングでつくるこの施設がどういう意味を持つかというと、“まちに出る理由”なのではないかと。居心地のいい場所があったり、そこに仲間がいたり、人生のアドバイスをくれる先輩がいたり、自己表現を発信できたりという、リアルな場の情緒的価値のようなものかもしれません。それをここで感じてもらえたら嬉しいですし、ここが誰かにとっての“出かける理由”になれたらいいと思います。404 Not Foundを面白そうだなと思う人、これまでとは違うことにチャレンジしたい企業など、誰でもぜひ一度遊びに来てほしいです。」
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